リハスタ

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脳卒中後の意欲・自発性低下はアパシーが原因の可能性あり。

脳卒中後の患者に意欲・自発性の低下が見られる場合があります。脳卒中後にうつ(PSD)やアパシーが出現することが知られてきてはいますが、両者は臨床的に混同されやすく、回復期リハ病棟などでも不適切な対応をされがちです。


今回はアパシーについてまとめてみたいと思います。脳卒中後うつ(PSD)に関しては以前まとめた記事もありますのでそちらを参考にしてください。
physicalkun.hatenablog.com

アパシーの定義


脳卒中後うつ(PSD)に混同されやすい病態として、脳卒中後には自発性の低下を主体としたアパシーという状態を呈することがあります。


アパシーとは、感受性、感情、関心の欠如と定義されています。またアパシーは、動機付けの欠如によるものであり、意識レベル低下や認知障害、感情的な悲嘆に起因するものではないとされています。


アパシーとPSDは一部似たような症状が見られますが、全く異なる病態として認識しておくことが大事だと思います。また後で述べますが、薬物療法においても選択肢が異なってきます。下の図でそれぞれの症状と重複する症状を現しています。


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PSDでは自己に対して悲壮感などのネガティブな感情を抱きますが、アパシーは自己の状態に関しての内省的な感情は見られません。また病識欠如もアパシーの特徴的な症状です。

アパシーの診断と発症頻度


ある2つの回復期リハ病棟で、重度の認知機能低下や失語症患者を除外した196名のうち、アパシーと判断された患者は60名だったとの報告もあり、発症頻度は30.6%でした。


アパシーの診断には、海外のスケールを日本人向けに標準化した「やる気スコア」が使用されることが多いです。点数が高いほど意欲低下が強いと判断され、16点以上でアパシーと診断されます。


質問形式で、それに対する答えを4つの選択肢から選び点数化します。


①新しいことを学びたいと思いますか?

②何か興味を持っていることがありますか?

③健康状態に関心がありますか?

④物事に打ち込めますか?

⑤いつも何かしたいと思っていますか?

⑥将来のことについての計画や目標を持っていますか?

⑦何かをやろうとする意欲はありますか?

⑧毎日張り切って過ごしていますか?

全くない:3 少し:2 かなり:1 おおいに:0

⑨毎日何をしたらいいか誰かに言ってもらわなければなりませんか?

⑩何事にも無関心ですか?

関心を惹かれるものなどなにもないですか?

⑪誰かに言われないとなにもしませんか? 

⑫楽しくもなく、悲しくもなく、その中間位の気持ちですか?

⑬自分自身にやる気がないと思いますか?

全く違う:0 少し:1 かなり:2 まさに:3
16点以上がアパシー


比較的単純な質問ですし、時間的にもそれほどかかりませんので臨床的にも使いやすいと思います。




アパシーの原因


アパシーの病態には、前頭前野機能の低下が関与しているとの報告があり、アパシー症例では両側の前頭前野領域の血流低下が有意に見られたそうです。またアパシーは血管性認知用の前段階としても注目されており、今後も病態解明が期待されます。


またパーキンソン病の患者においてもアパシーが見られやすく、基底核病変の関与も考察されています。中脳ー前頭葉皮質投射系のドーパミンの枯渇がパーキンソン病の原因ではありますが、ドーパミンの低下がアパシーに関与を示唆しています。

アパシーの治療と対応


アパシーは、ドーパミンあるいはノルアドレナリン作動系神経の機能低下が関与しているとされ、ドーパミン作動薬により、改善が認められています。また、脳循環代謝改善薬でも、二重盲検試験で有意に意欲低下を改善したとの報告も見られてます。


漢方でも、唯一アパシーに有効とされているのが、釣藤散(チョウトウサン)らしいです。


アパシー患者は、目標や計画を立ててみずから行動することは困難ですが、外部からの誘導には比較的反応が良いことが多いです。対応としては1日のスケジュールを立て、そのスケジュール表に沿って活動するよう適宜促すようにしています。


退院後は、自ら行動しないために入院中と比べ活動量が減少し、廃用性に能力が低下しやすいとされています。また家族からも怠けていると誤解されやすいです。


退院後も活動量を維持するために福祉サービスを積極的に導入することやアパシーを理解してもらうための家族指導が大事だと思っています。


以上がアパシーについてのまとめです。PSDとの判別や、病態的に自発性・意欲が低下しているということをしっかり知識として持っておくと、患者さまとの関わり方にも工夫ができるかもしれませんね。


本日も最後までお付き合いありがとうございました。