リハスタ

   理学療法士による知っとくとためになる情報発信

腎臓リハビリについて。運動療法で腎機能改善が図れる可能性あり。

最近になって、腎臓リハビリという言葉をよく目にすることが増えたなーと思います。


以前までは、腎不全(CKD)患者に対しては運動制限が推奨だったようですが、最近は運動療法によって、腎機能(GFR)の改善が認められたという研究が出てきているようです。


私の病院では、あまりCKD患者は多くありませんし、まして透析設備もないのですが。


今後、この腎臓リハビリが発展していきそうな感じがするので、今のうちに概要を勉強してみました。

慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の人口


日本腎臓学会の調査によると、我が国の成人人口における慢性腎臓病(CKD)患者数は1333万人と推計されています。


超高齢社会を反映して透析患者(末期腎不全)も年々増加・高齢化しています。


2014年のデータでは透析患者は32万人、平均年齢は67.54歳。2014年新規導入透析患者は3.6万人、平均年齢は69歳。


CKDでは尿異常から始まり、徐々に腎機能が低下して末期腎不全に進行します。


CKD患者に対して運動療法を行うことで腎機能が改善や腎機能低下の遅延が得られれば、透析導入を先延ばしにすることができ、多くのCKD患者にとっての朗報となる可能性があります。


今までは運動制限、これからは運動療法


今までは、CKD患者に対して運動制限を行うことが多かったようです。


運動によってたんぱく尿や腎機能障害を悪化させるという懸念があったからですが、臨床的な根拠はないみたいです。


確かに、運動によってたんぱく尿の増加は見られますが、1~2時間の一過性のもので長期的な変化ではないこと。


運動時に、GFR(糸球体濾過値)も低下しますが、これも一時的なものであり、長期的な影響を検討した臨床研究では適度な運動による腎機能障害の悪化はなく、逆に改善したという報告が出てきています。


これらの研究によって、CKD患者に対しての運動療法、すなわち腎臓リハビリの有効性が高まってきている流れです。


また、保存期CKD患者だけでなく、透析患者においても透析中に運動(エルゴメーター)を行うことで、たんぱく同化が促進され、リンなどの老廃物の透析除去効率が高まることも報告されています。
     f:id:physicalkun:20180301151552p:plain


CKDと心血管疾患の関係


CKDの重症度ステージは推定GFRを用いて分類されます。ステージが進むほど狭心症・心筋梗塞などの心血管疾患の発症リスクが加速度的に高まるとの結果が出ています。


保存期CKDでは、GFRの低下により透析療法に移行する患者数より、心血管疾患により死亡する患者数の方が多いとされています。


CKDの治療において、CKDの進行を抑制し透析移行を予防・遅延するだけでなく、心血管疾患を回避することも重要となってきます。


また透析患者においても、心血管疾患に対する臨床ガイドラインには、「医療関係者は透析患者の運動機能評価と運動の奨励を積極的に行う必要がある」と明記されています。




CKDの運動療法のメリット

2011年に設立された日本腎臓リハビリテーション学会によると、じん不全透析患者における腎臓リハビリの効果として

①最大酸素摂取量の増加

②左心室収縮能の更新

③心臓副交感神経系の活性化

④心臓交感神経過緊張の改善

⑤PEW(protein energy wasting)の改善

⑥貧血の改善

⑦睡眠の質の改善

⑧不安・うつ・QOLのっ改善

⑨ADLの改善

⑩前腕静脈サイズの増加

⑪透析効率の改善

⑫死亡率の低下 を挙げています。


CKDの適応患者 算定方法


腎臓リハビリはまだまだ新しい領域であり、腎臓疾患リハの名前では診療報酬収載されていません。


CKD患者は心不全や廃用症候群を伴うことが多く、糖尿病性大血管疾患(脳卒中、冠動脈疾患)の合併症も引き起こしている症例も少なくありません。


冠動脈疾患、末梢血管疾患、慢性心不全患者であれば心大血管疾患リハ料として算定可能です。


脳卒中では脳血管疾患リハ料、廃用症候群も廃用症候群リハとして算定が可能。


運動療法の適応患者は安定している透析患者や保存期CKD患者とされています。


急性に増悪しているCKDや、ネフローゼ症候群などの高度たんぱく尿を合併するCKDでの運動療法の効果に関してのエビデンスはありません。今後もエビデンスの蓄積が期待されますね。


CKDの運動療法の運動負荷


頻度は有酸素運動3~5日/週、レジスタンス運動2~3日/週。


強度は、中等度強度の有酸素運動が推奨されており、酸素摂取予備能の40~60%、自覚的運動強度(ボルグ指数)では「楽である」から「ややつらい」程度の負荷が推奨されています。


やはり継続することが一番重要なので、運動負荷の設定がかなり重要なのかなと思います。あとは、運動することの必要性を明確にし、患者の動機づけをどの程度行えるかも、セラピストとしての腕の見せ所ですね。


CKDとサルコペニア


CKD患者にはサルコペニア・フレイルが多く認められ、GFRが低いほど多くみられる傾向があります。


CKD患者では代謝性ストレスが大きくなるので、ストレス係数が高くなり、必要エネルギー量が増えやすい状況にあります。


また、透析患者では、透析による栄養素の喪失(アミノ酸やたんぱく質)も加わり、サルコペニア・フレイルを来しやすくなります。


サルコペニア・フレイルを予防するためには先ほど挙げた運動療法も重要ですが、食事療法も大事になってきます。


一般的に、CKD患者では腎機能低下予防としてたんぱく質制限が行われます。しかし、たんぱく質制限をしつつも十分なエネルギー量確保を考慮する必要があります。


なぜならエネルギー量が不足すると、体中のたんぱく質(筋肉)が分解されエネルギー源とされます。結果的に、体内の尿素窒素が増えるため、たんぱく質を多く食べたことと同じ状態になってしまいますからね。


このあたりも理解したうえで、運動療法・栄養療法を行う必要性がありそうですね。


2016年の診療報酬改定では糖尿病透析予防指導管理料に腎不全期患者指導加算が新設されており、今後の改定で理学療法士の職域の拡大につながるといいですよね。

腎臓病療養指導士や腎臓リハビリテーション指導士などの資格も動き出しているようなので今後も期待です。


本日も最後までお付き合いありがとうございました。