リハスタ

   理学療法士による知っとくとためになる情報発信

リハビリ職に関する医療訴訟。自分の身を守るために必要なこと。

平成16年が医療訴訟数のピークといわれ、年間に1000件以上の医療訴訟がありました。その後、徐々に減少してきていましたが、ここ数年再び増加の傾向が見られています。

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テレビでもよく聞かれるモンスターペイシェント(患者)など、中には不合理な話も時々聞いたりしますが、やはり医療従事者側の不手際・ミスなどが原因であったり、患者との間での認識の違いなどから来る訴訟なども増えてきているような気がします。


また、昔に比べて裁判・訴訟というものがそれほど特殊なものではないという風潮があるような気がするのと、患者側の権利意識も強くなっているのかもしれませんね。


訴訟対象も病院だけでなく職員個人に及ぶケースが増えてきています。病院が加入している保険はあくまで病院に対して賠償命令が下った際に、補償してくれるというものです。


個人にも責任が認められ賠償命令が下った際には、個人レベルで解決しなくてはなりません。個人への訴訟になると、医師・看護師が確かに多いですが、もちろんリハビリ職にも無関係な話とは言えません。


今回は、リハビリに関する具体的な訴訟・訴訟に対しての自己防衛をまとめてみます。

リハビリに関する訴訟①

調べてみると、リハビリが関わっている医療訴訟もちらほら散見されます。いくつかまとめてみます。

歩行練習中の転倒で急性硬膜下血腫で死亡した事例

パーキンソン病の70代の男性が、病室で理学療法士と向かい合って歩行練習中、理学療法士が自身の後方確認のため背後を振り向いた際に、患者が後ろ向きに転倒して頭を打ち、急性硬膜下血腫で死亡した事例がありました。


裁判所は、パーキンソン病でリハビリ治療中だった男性が転倒することは予見可能だったとし、病院側は男性を常時監視し転倒しないように備える義務を怠ったとして病院の過失を認め、3600万円の損害賠償を命ずる判決を下しました。


パーキンソン病にかかわらず、リハビリ対象者の高齢者には多くの方に転倒のリスクがありますよね。


患者と向かい合って歩行練習することも多々あり、セラピストは後ろ歩きになるわけですから、当然、時折後方確認しなければなりません。みなさんの病院でもよくある風景ではないでしょうか??


その一瞬の後方確認の際の転倒だとすると、常時監視し転倒しないよう備える義務を怠ったというのはなかなか厳しいようにも思えます。


今回の事例の詳しい状況は分かりません。向かい合って歩行練習も前方から介助行っていたのか、近位監視だったのか、患者との距離は適切だったのか、前方にセラピストが位置することが適切だったのか、、、色々な要素があるかと思います。


ただ臨床ではよく見かける風景での一瞬のミスだとしたら、誰の身に起きても不思議ではない医療訴訟だと考えさせられました。

リハビリに関する訴訟②

リハビリ終了後、ベッド柵に首が挟まり死亡した事例

ベッドサイドにて片麻痺患者のリハビリ終了後、セラピストが患者を臥床させベッドのリクライニング角度を挙げたまま病室を離れた。その数時間後、患者がベッド柵に首が挟まった状態で見つかり、翌日死亡した事例がありました。


理学療法士にはベッドを平らにする注意義務があったとし、それを怠ったため患者が死亡したと判断し、市に損害賠償として2800万円を求める裁判がありました。最終的には、市が和解金1600万円を支払和解となり、理学療法士は起訴猶予処分となりました。


市に賠償ということは、この病院は公的病院だったのかもしれませんね。結果、和解ということはやはり病院側の非を認めたということですね。


おそらく、体動もしくは体幹機能の低下により姿勢が崩れ、不幸にしてベッド柵に挟まってしまったのではないかと思われますが、このようにリクライニングの角度をある程度挙げたまま退室することもみなさんもあるのではないでしょうか??もちろん、患者の体幹機能とリクライニングの角度を判断して行う必要があると思いますが。


この事例もそれほど特殊ではないケースではないだけに、他人事ではない気がします。




防衛手段①

他にも看護師などの色々な訴訟例に目を通しましたが、防衛手段として基本的なことは当たり前のことなんですが、診療記録の徹底ですね。みなさん、カルテの記入は正確に書かれていますか?


病院によってカルテの記入方法は若干違うかもしれませんが、著変なし、no change、1)~5)doなど、手を抜いたようなカルテ記載に頼ってはいないでしょうか?


また、普段と違う症状(例えば普段より血圧が高かったなど)が現れた際、逐一記録してますか?さらにDrにコンサルしたこと、Nsに伝達したことなども、記入していますか?


もし、普段との異変に気付いたとして、その症状を記録したとしても、それを必要なスタッフに伝達したかどうか、適切に対応したかどうかまで記録しておくことが重要となります。


自分の身を守るのはやはり診療記録なんですね。

防衛手段②


平成28年11月になって、突然理学療法士協会は協会入会者に対して保険対象としましたね。


すでに作業療法士協会、言語聴覚士協会は協会加入者に対して、同様に保険対象としていたので、ようやく最低限のラインに理学療法士協会も並んだというところでしょうか??


ただ、それだけで安心していませんか?


協会の保険額は1事故につき上限300万円です。しかも年間の上限も300万円なので、もし年に2回300万円の事故を起こすと2回目はすべて自己負担です。


また、先ほどの訴訟例でもあったように、重大事故などを起こした場合は300万円が上限程度の保険でははっきり言って、焼け石に水です、、、。


何千万円の賠償になった際、それらを背負って生活していくことになります。家が一軒建つほどの金額です。


それを思うと、理学療法士協会の全員加入の保険だけでは心もとないですね。なので、私は協会の任意の保険にも加入しています。こちらの保険は、協会加入者であれば年会費3500円で入会可能です。


身体賠償の保険の支払限度額は1事故につき9700万円になります。全員加入保険と合わせて1億円ですね。また保険期間中の支払限度額は2億9700万円です。


最近は、病院に入院しているいわゆる患者だけでなく、地域に出て地域在住の高齢者に対して予防理学療法の分野で活動されている理学療法士の方も増えてきていると思いますが、そのような健康増進のような関わりの際にも保険対象となります。


さらに日常生活上の事故、例えば自転車運転中の事故などまで対象となります。


年会費は3500円です。一回飲みに行くのをやめれば払える程度の金額です。


何もないに越したことはないですが、もし何千万円の賠償に至るような事故を起こしてしまった際、はっきりゆって人生設計はパーになると思います。


私の職場では、保険の重要性を説明して加入を勧めてはいますが、最後に加入するかどうかは結局本人次第です。


もし個人レベルの保険に加入されていない方は、この機会に加入を検討されてはいかがでしょうか??


本日も最後までお付き合いありがとうございました。