リハスタ

   理学療法士による知っとくとためになる情報発信

歩行自立の判断基準。身体機能の自己認識の評価が重要だと気付いた!!

歩行自立の判断て、みなさんはどのように判断しているでしょうか?


判断が早すぎて転倒させてしまっては本末転倒。判断が遅すぎて退院までに十分に活動性が上がらなくてもそれは患者の不利益。


本日は、転倒に関する情報。そして、理学療法士なら共通の悩みの「歩行自立の判断」についても私なりの考えをまとめてみます。

転倒予防が重要なテーマ


超高齢社会の日本にとって、高齢者の健康寿命の改善は重要な課題です。


平均寿命はよくニュースなどでも取り上げられますが、平均寿命だけでなく健康寿命も重要となってきます。


健康寿命は、分かりやすく言えば他人の手を借りずに、自分で自立した生活を送れる期間のことを指します。どうしても平均寿命と健康寿命の間には差が生まれてしまいます。

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この差を少しでも埋めるために、我々理学療法士たちは地域在住の高齢者を対象に運動指導などを行ったりもしています。私も現在、3ヶ所ほどの運動教室の立ち上げに参加させてもらい、定期的に運動の継続のチェック・体力測定(握力・TUG・片脚立位時間)などでフォローしています。


健康寿命を延ばすためにはどうしたらいいのか?その一つの答えは、転倒予防なのは間違いないです。

転倒の疫学

高齢者で介護が必要となる原因で、転倒は4位に挙げられています。相当な数の高齢者が転倒がきっかけで、今までの健康な生活からお手伝いが必要な生活を余儀なくされているということです。


転倒に関するデータでは、65歳以上の高齢者のうち、3人に1人が年に1回転倒し、そのうち少なくとも5~10%は入院する必要性がある外傷を負うとされています。転倒してしまうと、大腿骨頸部骨折、脊椎圧迫骨折などの骨折を伴うことが多いです。


痛みや手術後の不動期間もあって、なかなか転倒前のような身体機能の回復までは難しいケースが多く、転倒しにくい体づくり、環境づくりがやはり重要なのは間違いないです。




病院内の転倒疫学

入院患者の転倒の実態も調べてみました。


私は、回復期リハビリテーション病棟を主体とした病院に勤めています。急性期病院と回復期リハビリ病棟では、病院・病棟としての機能が大きく違うので、当然転倒の割合も違ってきます。


ある報告によると、転倒発生率が急性期病院4.1/1000人/日であるのに対し、回復期病棟では13.9/1000人/日だそうで、急性期病院に比べ3倍近く回復期病棟では転倒が起きているようです。


回復期病棟では、積極的に患者の活動性を高めていく必要があるので、やはり急性期病院より転倒のリスクが高くなってしまいますね。


転倒してしまうと、もちろん、転倒による外傷(骨折・頭部外傷)などの可能性もありますが、外傷を負わなかったとしても、転倒後症候群といった過剰な転倒に対する恐怖心のあまり、日常生活に支障をきたす場合もあります。


患者の歩行自立の判断(一人で歩くことを許可する)は、主に理学療法士が判断することが多いと思います。この判断に色々と迷いながら、日々臨床を行っているセラピストは多く、私もその一人です。下の方で、個人的に自立の判断で重要視している点を書きます。

高齢者の転倒の要因は何か??


なぜ、高齢者は転倒してしまうのか??


もちろん、加齢による身体機能の低下や最近注目されているポリファーマシー(多剤併用)の影響などいろいろな因子が考えられますよね。
physicalkun.hatenablog.com



ヒトの筋肉量のピークは30歳ですから、それ以降は年に1%ずつ筋肉量は低下するといわれています。


なので、例えば80歳の高齢者は30歳の時の筋肉量に比べ50%少ない状態といえます。半分しかないんですよ、おどろきですよね!そりゃ転んでしまいますわ。


ただ、最近個人的には身体機能の低下だけでなく、「自分自身の現在の身体機能を正確に把握しているのか」、これが結構重要な要素なのかなと思ったりしてます。




身体機能の自己認識

運動会の保護者のリレーで毎年少なくとも一人はお父さんが転んでいるところが多いのではないでしょうか?しかもだいたいコーナーで転びますよね。


若いときのイメージで走っていると、実際の体はそのイメージについていけず転倒!これも身体機能の自己認識ができていないと言えるエピソードだと思います。


高齢者では立った状態で物を取ろうと思って手を伸ばしたら、バランスを崩して転んだ。


段差をまたごうと思って足を上げたら、足が引っかかって転んだ。


わりと、高齢者と話していると聞かれるエピソードかなと思います。


加齢により筋力が落ちているためバランス能力が低下し、転倒してしまった。足が十分に上がらず、転倒してしまった。確かに身体機能の低下が影響ではありますよね。


ただ、もしご自身の身体機能を正確に把握していれば、転倒を防げたかもしれないと思いませんか??


たとえば、手を伸ばす際にもう一歩対象物に近づいて手を伸ばす。この段差の高さは自分には高いので、別の道を探す・何かにつかまってまたぐなど。


加齢による身体機能の低下、その低下した身体機能の範囲内で無理なく生活できればもう少し転倒を未然に防げるように思います。


身体機能の見積もり


じゃあ、どうやって身体機能の自己認識を評価するかですよね。調べてみると、すでに研究がなされており、かなり興味深いです。


例えば、TUGテスト。検査環境を整え、課題を提示したあと、どのくらいの時間で課題を終えることができるか予測してもらう。そのあとに、実際に課題を行ってもらい、予測した時間と実測した時間の差をみる。


Functional Reachtテスト。課題を提示したあと、どのくらいまでの長さに到達可能であるか予測してもらう。これもそのあとに実測する。


予測と実測の差が少ないほど、自身の身体機能を正確に認識されているということですね。これが極端に異なると、特に実測値より予測値の方が良い値を予想していた場合は、自身の身体機能を過信しているといえることもあり、この差を埋めていくようなアプローチが必要と思っています。


自身の身体機能を正しく認識してもらうには、さまざまな課題で予測・実測してもらうようにしています。例えば、片脚立位時間やCS-30、10m歩行などなど。いろいろな課題を行う中で、適宜フィードバックを行い、今のご自身の状態を数字を使用してフィードバックしています。


歩行自立の判断の多くは、理学療法士が主体となって行っている病院が多いと思いますが、なかなか自立の判断に迷う場合も多いですよね。そんなとき、少し自己身体機能の認識をチェックしてみてもいいのかなーと思ってます。


本日も最後までお付き合いありがとうございました。